相対的に優位なものを見出す比較優位
アダム・スミスの後、19世紀にイギリスの経済学者『デヴィッド・リカード(1772年〜1823年)』は、アダムの『国富論』に影響を受け、自由貿易を擁護する理論を唱えました。
デヴィッドは、貿易の大原理原則の概念である『比較優位』を発見したことによって、国際貿易は世界の常識となりました。
比較優位の原理を理解できると、
2つの国の間で貿易をすると、とても良い相乗効果が狙えるということです。
実は様々なことに応用できるようになるのです。
例えば、ある条件の類似した、A国とB国があったとします。
A国 : 【労働者】200人 【生産品】小麦、自動車
B国 : 【労働者】200人 【生産品】小麦、自動車
さらに、それぞれの生産量を見てみます。
A国 : 【小麦】1000t/ 労働者100人 【自動車】500台 / 労働者100人
B国 : 【小麦】900t/ 労働者100人 【自動車】300台 / 労働者100人
『生産合計』: 【小麦】1900t 【自動車】800台
▶️ 小麦も、自動車もA国が絶対的に勝っています。
ここで、2国間を相対的の見方で分析して見ると、
『小麦』の生産量は、B国は、A国の9割
『自動車』の生産量は、6割 となり、
自動車よりも小麦の方が生産性が高いということが言えます。
そんな2国が貿易を行うようになると、
A国は得意な自動車に重点を置き、B国も得意な小麦により力の比重を置くことができます。
A国は、余り小麦を作らなくてもよくなり、労働者を80人移したとします。
【小麦】労働者20人 【自動車】労働者180人
B国は、全総力を持って、小麦に移行したとします。
【小麦】労働者200人 【自動車】労働者0人
すると、
A国 : 【小麦】200t/ 労働者20人 【自動車】900台 / 労働者180人
B国 : 【小麦】1800t/ 労働者200人 【自動車】0台 / 労働者0人
『生産合計』: 【小麦】2000t 【自動車】900台
▶️結果、貿易後の、2国の生産量は、両事業ともに生産量を増やすことができました。
絶対的に見ればA国の方がB国より強くても、それぞれ互いに得意分野に専念し力を入れ、貿易によって適切に再分配すれば、実は両方の国の利益が高まるという原理です。
この『比較優位』の考え方は、国際貿易の場で使われるようになりましたが、日常生活や職業生活など、実は様々なところへ応用できます。
ある家庭において、奥様が旦那様よりもはるかに高給取りの場合、夫婦に赤ちゃんが産まれた時、子育ては、旦那様が行い、奥様が働きに出た方が、家計全体としての収入が増えると言うことがあります。
実は、多くの家庭が、
2人のうちどちらが働いた方が、月々の収入が高いだろうか、
あるいはどちらが子育てをした方がより良い子育てをできるだろうかと、
無意識にも比較優位の考え方で役割分担をしていることがあるのです。
また、比較優位は仕事にも応用ができます。
『世界一のパティシエ』が居たとします。
でも、パティシエ自らが接客していたら生産性が上がらないため、販売店員さんに売ってもらう。
店員さんは、世界一のケーキは作れないけど、お店の売上には貢献できています。
これが比較優位の考え方です。
比較優位の考え方において、ぜひあなたに汲み取って欲しいことがあります。
勉強でも、スポーツでも、遊びや芸術でも、この人には敵わないな、という人があなたにも居るかと思います。でも絶対的にあらゆる分野で負けていても、相対的には結構良い線行っている分野があるはずです。
その部分に特化していけば、ものすごい才能を持っている人と一緒に仕事をすることによって、全体で見ればこれまでよりも、より良い、大きな成果をあげることができるのだという事なのです。
自由貿易促進の取り組み
比較優位の発見によって、貿易を行うことは、双方にとって良いことだ、ということがわかりました。
1929年にニューヨーク株式市場での株価暴落を発端に世界的に大規模な経済恐慌となった、
『世界大恐慌』の時は、
世界各国が自国の産業を守るために輸入をストップしたり、ものを輸入するときに輸入品にかける税金である高い関税をかけたりして、
その結果、国際貿易がほとんど行われなくなり、かえって不況になり恐慌が広まってしまいました。
そういった反省から、それぞれの各国がなるべく自由な貿易をした方が、世界全体にとって有益だということで、第二次世界大戦後、関税の撤廃や、輸出入制限など様々な取り組みに力を入れて行われるようになりました。
それを強めるために出来たのが1948年に発足した『GATT(関税および貿易に関する一般協定)』です。
またGATTよりもさらに拘束力の強い組織にしようと発展したのが、1955年に発足した『WTO(世界貿易機関)』でした。WTOのルールに従って、模造品の取り締まりも強化されました。
中国は、WTOに加入以降、規制緩和によって、大躍進することになりました。
これまで、GATTや、WTOは、国際会議で様々なルールを決めてきました。中でも大変有名なものに、1986年に始まった、GATTによる8回目の多角的交渉貿易である『ウルグアイ・ラウンド』があります。
ウルグアイは、南米に位置する国で、ラウンドというのは、ボクシングの第1ラウンド、第2ラウンドと同じと考えてください。
このGATTの会議で、これから何年間の計画で貿易をどんどん増やそうというステージを設定しました。
ウルグアイ・ラウンドで、米の自由化が議題に
ウルグアイ・ラウンドでは、日本がやり玉に上がりました。
戦後の長い間、日本では農業にとって一番大事なのはお米だということで、それまでお米の輸入を一切禁止してきました。
しかし、国際貿易は、自由にやっていこうというルールがあるのに、日本はどうして米の輸入だけ認めないのか、自動車やテレビ、洗濯機や冷蔵庫を世界に輸出しているのに、米だけを輸入しないのはおかしいと、激しい圧力を受けたのです。
これに対して、日本の農家は、米の輸入に大反対しました。
ただその一方で、日本が米の輸入を認めないために、日本の自動車やテレビなどの輸出が認められなくなったり、日本の工業製品がボイコットされるようになったりすれば、日本の産業は大打撃を受けることになりますよね。
そして結局この流れで、最後の最後ギリギリになって、
1995年以降、日本はGATTへ加入し、海外からお米を輸入することを認め、輸入するようになりました。
その代わりに、自国の産業を守るために高い関税をかけることは認められました。
しかし、それも本来はやってはいけないことだからと、どうしても高い関税をかけるなら、罰則を与えるということになりました。
日本は、農家を守るために輸入米に高い関税をかけているため、罰を与えられています。
『ミニマムアクセス米(略して、MA米)』と呼ばれる米を、年間77万トン輸入しているのです。
※MA米の処分に困った末に、2008年には事故米不正転売事件が起きました。
工業国とやり取りする日本のEPA戦略
WTOに加盟している国と、地域は、2017年時点で、164ありました。
WTOが国際的なルールを決めることになっていますが、大きくなりすぎたため、164の国が一緒に会議をすると、とても時間がかかります。
それなら、WTOとは別に、お互いに気心が知れている仲の良い国同士でルールを決めれば良いじゃないかという動きが次第に広がりました。
それが、『FTA(自由貿易協定)』や、『EPA(経済連携協定)』と呼ばれるものです。
FTAは、
特定の国・地域との間でものに係る関税およびサービス貿易の障壁の撤廃を目的とした協定です。
EPAは、
FTAの内容に加え、投資規制の撤廃、紛争解決手続きの整備、人的交流の拡大、知的財産権の保護など、より幅広い経済関係の強化を目的とする協定です。
これらは、そんなに多くの国でなく、2国間で結ばれることもあります。
日本が、現在、EPAを結んでいる国は、
スイス、インド、ASEAN、メキシコ、ペルー、チリ、などです。
チリワインや、チリサーモンが、安く手に入るようになったのも、
2007年にチリと日本が、EPAを結んだからなのです。
色々な国とEPAを結んで、自由に貿易をするのが良いと考える一方で、
例えば、中国と協定を結んで、安い農産物が大量に日本に入ってくると日本の農家がやっていけなくなります。
なので、日本は、農業国でなく工業国とEPAを結んでいます。
インドは、農業国であると同時に工業国でありますが、インドから農産物を輸入することはほとんどありません。
また、メキシコ、ペルー、チリで作られる農産物は日本とは、全く違うものが多いことがあり、輸入をしても日本の農家が困ることがないということです。
またEPAは素晴らしいと一般論では言えますが、実態を見ていくと日本の政策は透けて見えてきます。
例えば、医療や介護の現場での現場での人手不足を例に上げてみます。
EPAを結んだ人件費の安い国から多くの研修生を受け入れます。ただし、日本人の仕事が奪われすぎては困るため、難しい試験に合格できなければ日本での資格を与えないことにしています。
こうして、介護士や看護師を目指して日本にやってきた多くの外国人たちは、研修期限が切れると、失意の中で帰国するケースが多くあります。
病院や、介護施設にすれば、一定期間、本国での資格を持っている、能力や技術の高い人たちを研修料金だけで働かせることができ、非常に安上がりになるということです。
表向きと、裏の狙いといった様々な意図が交錯するということですね。
自由産業を守るために、それぞれの言い分がある
さらにここから、『TPP(環太平洋経済連携協定)』とは何かを見ていきます。
TPPとは、Trans -Pacific-Partnershipの略で、Transとは、『環』という意味で、太平洋を取り巻く国々で戦略的にお互い経済で連携し、関税を撤廃したり、また関税だけでなく金融商品も自由に売買できる関係を作りましょうという協定のことです。
日本など、TPP参加11カ国は、2018年3月に『TPP11』に署名しました。
【TPP参加国】:
シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、オーストラリア、ベトナム、ペルー、マレーシア、カナダ、メキシコ、日本
当初は、シンガポール、ブルネイ、ニュージーランド、チリで始まりました。
そして、この4カ国がうまくやっているのを見て、アメリカやオーストラリアなどが自分たちも加入しようと交渉を始めましたのです。
また、韓国はアメリカやEUと、FTAを結んでいて、自動車や電気製品の関税が0(ゼロ)です。
そのような国際競争を背景に、自動車や電気製品は日本の輸出を支えているからこのままだと日本の経済が危ういと日本は焦りを覚え、TPPに参加し、加盟して関税をなくして国際競争に勝とうとしています。
ですが、農産物まで関税をなくして自由化してしまうと、
オーストラリア、ニュージーランドから安い農産物が大量に日本に入ってくるため、日本の農業が壊滅状態になると言って、米の輸入と同じように国内で農家、農業団体、農林水産省が大反対をしました。
一方で、経済産業省は、TPPに参加しなければ自動車や電気製品の工業製品が外国製品に負けてしまうと言いました。
日本で、自動車を作ってアメリカに輸出すると関税がかかりますよね。なので、トヨタ、ホンダ、日産もアメリカに工場を作って、大量の自動車を生産しています。
しかし、本来日本にあるべき工場がアメリカに引っ越ししてしまえば、
『産業の空洞化』が起きてしまう。
産業の空洞化とは、
国内企業が生産拠点を海外に移転することにより、国内でその産業が衰退してしまうことで、
農業を守ろうとしているうちに、日本から工業が無くなってしまったら大変なことになる、という言い分でした。
農林水産省にしてみれば、そもそも日本は、農業があってこそ美しい国土が守られており、そこで大勢の人たちが働いており、そのような農業が壊滅状態になっていいものかと主張しています。
また、食料自給率という問題もあり、私たちが食べている食料はカロリーにすると、国産は40%にしかなりません。
国際的に食料不足になったり、紛争が大きくなったりして、外国から農産物を輸入できなくなったら大変ではないか、と、なるべく国産があった方が良いから農業を守らなければならず、TPPに参加すべきではない。
と、これが農業団体、農林水産省、農村から選出されている国会議員の言い分でした。
国際貿易は、それぞれの国にとって非常に有利だということは、リカードの比較優位の原則でわかっています。
しかし、問題はというと、そこから広まってきたものだということです。
全部の貿易を自由にしてしまうと、それによって自国の産業が壊滅状態になる可能性もあるのです。
ただしここで『財務省の貿易統計』を見てみると、
輸入野菜の割合が示されており、生野菜の輸入は、玉ねぎが全体の3割を占め、さらにカボチャや人参、ネギも輸入割合が高く、外国産の方が有利ということがわかります。
反対に、白菜や大根、ナスは、輸入割合が低く、国産が外国産よりも有利ということがわかります。
外国産よりも生産性が低くても、品質の高さなどにより、比較優位において、勝負できることもあります。
かの、フリードマンは、「輸入関税は、要らない」と唱えてましたが、そう単純な問題ではなさそうということです。
アメリカも、トランプ政権において、離脱を表明した現状において、その動きが気になるところですね。
現代では、一般的となっている、自由な国際貿易がありますが、今日に至るまでさまざまな変遷を催した末の現在があります。これまでの経緯を踏まえることにより、今後のさらに各国同士の比較優位を向上した、豊かで幸福な国際交易を目指していきたいですね。
ホラもコツコツ、1から勉強していこうと頑張ります!
一緒に頑張りましょう٩( ‘ω’ )و